Tolerance Stack Analysis Tool

累積公差からCpkまで:寸法連鎖のばらつきを「合否」と「締め所」に変える実務ガイド

現役の機械設計エンジニア(運営者情報公開:更新:読了 約12検証済みの計算:/verification

「各部品の公差は図面どおりOKなのに、組み立てたら全体寸法が規格を外れる」——これは寸法連鎖の累積公差の問題です。多くの電卓やExcelは累積公差の“数字”までは出せます。しかし設計者が 本当に知りたいのはその先、「工程能力(Cpk)は足りるのか」「足りないなら、どの寸法を・どれだけ 締めれば最小コストで通るのか」です。本記事は 4 部品の一貫した具体例を最初から最後まで使い、 累積公差の3手法 → Cp/Cpkでの合否 → 寄与度パレートでの締め所 → 公差配分の逆算までを通しで解説します。 読み終えたら、同じ数値をそのままブラウザの計算機に入れて再現できます。

1. 累積公差とは(寸法連鎖のばらつき)

複数の部品を組み合わせると、組立の仕上がり寸法(隙間・はめあい・全長など)は、関わる各寸法の 関数になります。この寸法のつながりを寸法連鎖、そして各寸法の公差が積み上がって 全体のばらつきになる現象を累積公差(トレランス・スタックアップ)と呼びます。公称の連鎖は 単純な足し引き(隙間 = Σ(方向 × 公称))ですが、公差の積み上げ方は「手法」によって大きく変わります。 単純な足し算(=後述のワーストケース)だけで判断すると、ほとんどの量産設計で過剰に厳しい見積りになります。

本記事では、次の 4 部品を直列に積んだ全長 L =(G1 + G2 + G3 + G4)を組立特性とし、 これを規格窓 USL 100.07 / LSL 99.93(公称 100.00・±0.07)に 収めたい、という一貫した例で進めます。

寸法公称公差工程σ扱い
G1 ベースプレート40.00±0.10未入力可変(自動σ換算)
G2 スペーサ25.00±0.04未入力可変(自動σ換算)
G3 カラー15.00±0.02未入力可変(自動σ換算)
G4 軸受座(工程σ実測)20.00±0.05σ=0.006(実測)固定(工程能力が既知)
G1±0.10
40.00
G2±0.04
25.00
G3±0.02
15.00
G4±0.05
20.00固定
図1:4寸法の寸法連鎖。各バーの高さ ∝ 公称値、ラベルは ±公差。G4 は工程σを実測入力した固定寸法(破線)。μ = 100.00。

このうち G4 軸受座は工程能力が実測済み(σ = 0.006)なので、その工程σをそのまま使います。 残る 3 寸法は工程σが未入力なので、公差から自動換算します(σ = 公差幅 ÷ (1.5 + 3 × 目標Cpk)、 既定の目標Cpk = 1.33 で分母 = 5.49)。換算式の根拠は検証記録(/verification)で公開しています。

2. 累積公差の3つの計算法:ワーストケース/RSS/モンテカルロ

累積公差の「ばらつき幅」の求め方は主に 3 つあります。前提が異なるので、どれか1つに切り替えるのではなく並べて見比べるのが実務的です。

① ワーストケース(算術和)— 安全側・最も厳しい

全寸法の公差が同時に最悪方向へ振れると仮定し、公差を単純に足し合わせます。確率を一切考えないため 最も安全側(幅が最大)ですが、量産では過大になりがちです。

ワーストケース(ばらつき半幅 = 各寸法の片側公差の総和)
半幅 = Σ|方向ᵢ × 公差ᵢ| = ±0.21 範囲 = 99.79 〜 100.21

② RSS(二乗和平方根)— 独立・正規分布を仮定した統計値

各寸法のばらつきが互いに独立で正規分布に従うと仮定し、σ を二乗和平方根で合成します。方向(±)は 二乗で符号が消えるため分散には効きません。量産の実運用に近い、最もよく使われる手法です。

RSS 合成σ と ±3σ 範囲
σ_total = √( σ₁² + σ₂² + … + σₙ² ) = 0.0208 ±3σ = 0.0625 → 範囲 99.9375 〜 100.0625

③ モンテカルロ — 分布の形まで見たいとき

各寸法を正規乱数でサンプリングして組立寸法を数千〜数万回試行し、ヒストグラム(分布の形)まで得ます。 理論上、平均は公称隙間に、標準偏差は RSS 合成σに収束します(相互検証)。本ツールは乱数シードを固定した 決定論生成なので、同じ入力・シード・試行数なら完全に再現します。

モンテカルロ(seed=12345, 10,000 試行)
平均 = 99.9999(≈ 公称 100.00) 標準偏差 = 0.0210(≈ RSS 合成σ 0.0208)

3手法の使い分け(比較表)

手法前提この例の結果使いどころ
ワーストケース全公差が同時に最悪±0.21安全側・最も厳しい上限確認。安全部品・少量生産
RSS(二乗和平方根)独立・正規分布±0.0625(3σ)量産の統計的見積り。Cpk 判定の母数
モンテカルロ乱数 10,000 試行±0.0630(3σ)分布の形・非対称・非正規まで見たいとき

この例では、ワーストケースの ±0.21 は規格窓 ±0.07 を大きく超えますが、 RSS の ±3σ(±0.0625)は規格窓の内側に収まります。では RSS で収まっていれば合格なのか?——ここが多くの設計者が止まるポイントです。

3. 「±3σに収まる」だけでは足りない — 工程能力指数(Cp/Cpk)へ

RSS の ±3σ 範囲(99.9375100.0625)は、規格窓(99.93100.07)の内側に収まっています。しかしこれは「ちょうど 3σ ぶんの余裕がある」だけで、量産の合格基準としては 不足していることが多いのです。ばらつき幅が規格に対してどれだけ余裕を持って収まっているかを 1つの数字にしたのが、工程能力指数 Cp / Cpk です。累積公差の RSS 合成では、μ に公称隙間、σ に RSS 合成σを そのまま代入して結線します。

工程能力指数(μ = 公称隙間、σ = RSS 合成σ)
Cp = (USL − LSL) / (6σ) Cpk = min( (USL − μ)/(3σ), (μ − LSL)/(3σ) )

この例に代入すると(μ = 100.00・σ = 0.0208・USL 100.07/LSL 99.93)、Cp = 1.12、Cpk = 1.12(平均が規格中心と一致するため Cp = Cpk)、最も近い規格までの 余裕は 3.36σ。目標 Cpk ≥ 1.33 に対して不合格です。RSS の ±3σ が規格に収まっていても、 Cpk はまだ 1.12 しかない——これが「±3σに収まるだけでは足りない」の正体です。

目安として、Cpk = 1.00 は最も近い規格まで 3σ(正規分布・中心一致で不良率およそ 0.27%=約2,700 ppm)、Cpk = 1.33 は約 4σ(同じく片側でおよそ 30 ppm)に相当します。1.33 が量産の合格ラインの目安として 広く使われるのはこのためです。数式の定義と数値は検証記録(/verification)で NIST/SEMATECH e-Handbook の教科書例と数値突合して公開しています。

この例の Cpk 合否を、あなたの寸法で確かめる

寸法・公差・規格(USL/LSL)を入れるだけで、3手法・Cp/Cpk・合否・余裕(σ)を1画面で。 インストール・ログイン不要、入力はブラウザ内だけで処理します。

→ 計算機を開く

4. どの寸法を締めるべきか — 寄与度パレート(80/20)

Cpk が不足したとき、全部の公差を一律に締めるのは非効率です。RSS 合成では各寸法が σ²(分散)で 効くので、分散寄与率 σ²ᵢ / Σσ²ⱼ の大きい寸法から締めるのが最短です。下図はこの例の寄与度パレートです。

G176.4%
G212.2%
G48.3%
G33.1%
図2:寄与度パレート(分散寄与率)。濃色 = 上位(累積80%まで)。上位 G1・G2 の 89% でほぼ全体を占める。

最大寄与は G176.4%。 上位 2 寸法(G1・G2)だけで 88.7% を占めます。つまり、この 2 つを締めれば 全体のばらつきの大半を落とせる——これが 80/20 の考え方です。なお G4(固定・8.3%)は 工程能力が実測固定なので、締める対象は可変の G1・G2 になります。

ここが差別化点です。順算の RSS 電卓や Excel マクロは「合成した1つの数字」しか返せず、どの寸法が効いているか(寄与度)は出せません。本ツールはこの寄与度パレートを標準で表示し、 設計者が“締め所”を一目で判断できるようにしています。計算の裏付けは検証記録に、算式は lib/tolerance.ts に分離して単体テスト済みです。

5. 目標Cpkに最小コストで届く — 公差配分逆算

「目標 Cpk 1.33 に届くには、各寸法をどれだけ締めればいいか」を逆算します。まず目標の 合成σを求め、そこから固定寸法(工程σ実測の G4)の分散を差し引いて、可変寸法に配れる残りを決めます。

目標σ と 固定分の差し引き
σ_target = specHalf / (3 × Cpk_target) = 0.07 / (3 × 1.33) = 0.0175 σ_fixed = 0.006(G4・配分対象外) σ_var_target = √( σ_target² − σ_fixed² ) = 0.0165

これを可変 3 寸法に配る方法を、切り替えではなく2手法並列で提示します。

手法a:比例スケーリング(今のバランスを保って一律に締める)

全可変公差を同じ係数 k = σ_var_target / σ_var_current = 0.826 倍します。現状の設計バランス (どの寸法を厳しくしているか)を保ったまま全体を縮めたいときに向きます。

手法b:均等σ配分(ばらつきを揃える=均一コスト下で最小の締め代)

可変寸法の σ を等しくします(σ_i,new = √(σ_var_target² / n_var))。均一コスト仮定の下では正味の公差削減量が 最小になる配分で、現状で絞りすぎている寸法は「緩めてよい寸法」として提示されます(負の Δtol = コスト削減余地)。

寸法現公差手法a 比例手法b 均等σ均等σの向き
G1±0.100±0.083±0.052締め
G2±0.040±0.033±0.052緩めてよい(削減余地)
G3±0.020±0.017±0.052緩めてよい(削減余地)
G4±0.050固定固定固定(対象外)

どちらの手法も達成後 Cpk = 1.33 でちょうど目標に届きます。手法b では、最も緩いG1 を ±0.10 → ±0.052 と強く締める一方、 現状で厳しすぎる G2・G3 は ±0.052 まで緩めてよいと判定されます (締め代合計 0.048/緩め余地合計 0.045)。「厳しくしすぎた寸法を見つけて緩める」 のもコスト削減の一手です。

これは 100 万円級の商用 CAD 公差解析ソフト(Enventive/CETOL 6σ/TOL J)の“意思決定”機能に相当する部分です。順算電卓や Excel は「累積公差の値」までは出せても、目標Cpkから各寸法の推奨公差を逆算して返すことはできません。 本ツールはこれを無料・数値入力だけで返します。配分逆算の数理は独自例題の手計算突合として検証記録で有効数字7桁まで公開しています。

配分逆算まで、この場で試す

目標 Cpk を入れると、比例スケーリングと均等σ配分の推奨公差を before/after で提示します。 固定寸法の自動除外・緩めてよい寸法の可視化まで、1画面で完結します。

→ 計算機で配分逆算を試す

6. 手を動かす(計算機で再現)

本記事の全数値は、稼働中の計算機と同じ計算エンジン(lib/ の純関数)で 算出しています。下の 4 寸法と規格を計算機に入力すれば、3手法・寄与度パレート・Cpk合否・配分逆算まで、 本記事とまったく同じ結果がワンクリックで再現できます。

寸法公称上公差下公差工程σ
G140.00+0.100.10(空欄)
G225.00+0.040.04(空欄)
G315.00+0.020.02(空欄)
G420.00+0.050.050.006

規格は USL 100.07 / LSL 99.93、目標 Cpk 1.33。方向はすべて「+」、 G4 の工程σ欄だけ 0.006 を入れ、他は空欄(自動換算)にします。

計算機を開いてこの例を試す

セクションAに上の4寸法を入力 →「計算する」→ セクションB(寄与度パレート)・C(Cpk合否)・E(配分逆算)まで そのまま追えます。

→ 計算機を開く

7. よくある質問

Q. Cpk はいくつあれば合格ですか?(1.33 の意味)

一般的な量産部品では Cpk ≥ 1.33 が合格ラインの目安です。Cpk=1.33 は平均から最も近い規格までに 約4σ(1.33×3=3.99)の余裕がある状態で、正規分布・平均が中心にある理想条件では不良率およそ 30 ppm(規格片側・100万個あたり約30個)に相当します。Cpk=1.00 だと余裕は 3σ に減り、片側でおよそ 1,350 ppm(約0.135%)まで悪化します。いずれも正規分布を仮定した目安で、平均が中心からずれると不良率は増えます。要求水準は用途や顧客規格により 1.33 や 1.67 などが使われます。

Q. RSSで規格に収まっていれば、ワーストケースで外れても問題ないですか?

一概には言えません。ワーストケースは全公差が同時に最悪方向へ振れる前提で、実際にその状態が同時に起きる確率は非常に低いため、量産では過大な見積りになりがちです。一方で安全裕度が要る用途(安全部品・少量生産・干渉が絶対に許されない箇所)ではワーストケースで判断すべき場合もあります。本ツールは両方を並べて表示するので、リスク許容度に応じて設計者が選べます。

Q. 寄与度パレートの「分散寄与」は、公差の大きい順とは違うのですか?

近いですが完全には一致しません。RSS合成では各寸法が σ²(分散)で効くため、寄与度は公差の大小そのものではなく σ² の大小で決まります。工程σを実測入力した寸法は公差からの自動換算とは別のσになるため、公差が大きくても分散寄与が相対的に小さい(またはその逆)ことがあります。だからこそ合計値だけでなく寸法ごとの分散寄与を見る必要があります。

Q. Cpkが目標に届かないとき、まずどの寸法から締めればいいですか?

分散寄与(σ²比)の大きい寸法からです。合成σは σ² の和の平方根なので、寄与の大きい寸法を1つ締める方が、小さい寸法を複数締めるより効きます。本ツールの配分逆算は、この考え方で「全体を一律に締める(比例スケーリング)」と「ばらつきを揃える(均等σ配分)」の2つの推奨公差を同時に提示します。工程σを実測入力した固定寸法は締められないため、逆算の対象から自動的に除外されます。

Q. CpkとCp、Pp/Ppkは何が違いますか?

Cp は規格幅を 6σ で割った「ばらつきの大きさだけ」を見る指標で、平均のズレを考えません。Cpk は平均のズレも含めて「最も近い規格までの余裕」を見るため、常に Cp ≥ Cpk が成り立ちます。Cp/Cpk は工程が安定している前提の短期的な能力(σに群内変動を使う)を指し、Pp/Ppk は全変動を使った長期的なパフォーマンス指数です。本ツールは合成σを1つの σ として扱うため、表示は Cp/Cpk です。

Q. モンテカルロは何回試行すれば十分ですか?

平均や標準偏差の推定なら数千〜1万試行で実用上十分に安定します(本記事の例も 10,000 試行)。分布の裾(まれな不良側)まで精度よく見たい場合はさらに多くの試行が要ります。本ツールのモンテカルロは乱数シードを固定した決定論生成なので、同じ入力・同じシード・同じ試行数なら結果は完全に再現でき、検証記録ページでRSS合成σとの一致を公開しています。

まとめ

要点を振り返ります。

  • 累積公差は手法で幅が変わる。ワーストケース(安全側)とRSS(統計的)を並べて見る。
  • RSSの±3σが規格に収まっても Cpk が目標に届くとは限らない(この例は Cpk 1.12 で不合格)。
  • 締め所は寄与度パレート(σ²比)で決める。この例は上位 2 寸法で 89%。
  • 配分逆算で目標Cpkに必要な推奨公差を2手法で提示。固定寸法は除外、緩めてよい寸法も可視化。
  • 寄与度パレートと配分逆算は順算電卓・Excelにはない差別化点(商用CADの意思決定を無料Webで)。
本記事の数式・数値は、稼働中の計算機と同じロジックで算出しています。計算の正しさは既知例題 (NIST/SEMATECH e-Handbook・Drake/Fischer の標準公式・JIS)との数値突合として検証記録(/verification)で公開。運営は現役の機械設計エンジニア(運営者情報)です。最終判断は設計者の責任で行ってください。

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